大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和62年(わ)811号 判決 1988年4月21日

本籍

広島県沼隈郡沼隈町大字能登原一〇二三番地

住居

同町大字能登原一四三六番地の一二

旅館経営

野草玄郎

大正四年一月一〇日生

本籍

広島県沼隈郡沼隈町大字能登原一〇二三番地

住居

同町大字能登原一四三六番地の一二

旅館従業員

野草アサノ

大正六年八月一日生

右両名に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官見越正秋出席のうえ審理を終え、次のとおり判決する。

主文

被告人野草玄郎を罰金一五〇〇万円に、

被告人野草アサエを懲役一年二月に各処する。

被告人野草玄郎において右罰金を完納することができないときは、金三万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人野草アサエに対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人野草玄郎は、広島県沼隈郡沼隈町大字能登原一四一六番地等において、あぶと館の名称で旅館業等を営むもの、被告人野草アサエは、右旅館業等の経理全般を被告人野草玄郎からゆだねられた同人の従業者であるが、被告人野草アサエは、被告人野草玄郎の業務に関し、同人の所得税を免れようと企て

第一  昭和五七年分の実際の所得金額は四八七五万九八三七円で、これに対する所得税額は二〇七六万三九〇〇円であるのにかかわらず、売上の一部を除外し、債券を購入するなどの方法により、右所得の一部を秘匿した上、昭和五八年三月一五日、広島県福山市三吉町四丁目四番八号所在の福山税務署において、同税務署長に対し、昭和五七年分の所得金額は五五五万五一三〇円で、これに対する所得税額は七二万六七〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の所得税二〇〇三万七二〇〇円を免れ

第二  昭和五八年分の実際の所得金額は四三〇一万五八五三円で、これに対する所得税額は一五六八万六一〇〇円であるのにかかわらず、前同様の方法により、右所得を秘匿した上、昭和五九年三月一五日、前記福山税務署において、同税務署長に対し、昭和五八年分の損失金額が二四〇八万四四〇七円である旨の虚偽の所得税の損失申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の所得税一五六八万六一〇〇円を免れ

第三  昭和五九年分の実際の所得金額は六八五六万二〇四六円で、これに対する所得税額は三二八一万〇二〇〇円であるのにかかわらず、前同様の方法により、右所得を秘匿した上、昭和六〇年三月一五日、前記福山税務署において、同税務署長に対し、昭和五九年分の損失金額が六〇〇万七一六〇円である旨の虚偽の所得税の損失申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の所得税三二八一万〇二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の目標)

判示の全事実につき

一  被告人両名、証人野草英臣、同野草淳史の当公判廷における各供述

一  被告人野草玄郎、野草アサエ(四通)、野草英臣(二通、うち一通は抄本)、野草淳史(二通、うち一通は抄本)の検察官に対する各供述書

一  被告人野草玄郎(二通)、野草アサエ(二一通)、弘津昌久(六通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の領置てん末書、売上高調査書、たな卸高調査書、仕入高調査書、租税公課調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、広告宣伝費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、減価償却費調査書、福利厚生費調査書、給料賃金調査書、利子割引料調査書、地代家賃調査書、事務用品費調査書、雑給調査書、諸会費調査書、燃料費調査書、支払手数料調査書、雑費調査書、除却損調査書、青色事業専従者給与額調査書、青色申告控除額調査書、白色事業専従者控除調査書、不動産所得調査書、利子所得調査書、配当所得調査書、雑所得調査書、譲渡所得調査書、所得控除額調査書、源泉徴収税額調査書、その他所得調査書、現金調査書、預金調査書、証券調査書、売掛金調査書、前払金調査書、土地調査書、減価償却資産調査書、電話加入権調査書、買掛金調査書、借入金調査書、未払金調査書、事業主貸調査書、事業主借調査書、元入金調査書、P/Lとの不突合額調査書、申告所得調査書、申告欠損金額調査書、青色申告の取消決議書(謄本)、所得税の青色申告の承認取消通知書、昭和五七年分所得税の加算税の賦課決定通知書(謄本)、昭和五八年分所得税の加算税の賦課決定通知書(謄本)、昭和五九年分所得税の加算税の賦課決定通知書(謄本)、領収済通知書(綴、謄本)

(法令の適用)

被告人野草アサエの判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するので、所得刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をなし、その刑期範囲内において、同被告人を懲役一年二月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

被告人野草玄郎については、被告人野草アサエが判示従業員として各所為に及んだものであるから、それぞれ所得税法二四四条一項(二三八条)に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項によりこれを合算し、その合算額の範囲内において同被告人を罰金一五〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納できないときは金三万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判所 中村行雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例